講義1 平成28年度第12回目

2016年5月26日。

5/25の第12回目は、後半(目標2)の第4回目。後半4回目と5回は、具体的な回折の例。まずは、単ス リット。次いで、二重スリットによる干渉の「復習」を行い、回折の暗線条件と干渉の明線条件が一致することを示す。つまり、高校の物理で理解可能な干渉は 振幅がcosであったが、大学で回折積分をやらないと計算できない回折は振幅がsinc関数(sinc(X) = sin(X)/X)。二重スリットによる干渉の前に回折によるゼロ次光の広がりについては、述べた。さて、二重スリットによる干渉についての補足。高校で は、二つのスリットを通る光の光路差が波長の整数倍という条件から明線条件を導いていたと思うが、大学では観測面上の振幅の分布を求めることがアドバンス トな事項。講義では、「複素振幅を使っているからcosの形が簡単に求まったが、高校では複素振幅ではやらないので、三角関数の加法定理を駆使しての計算 になるが、難度が上がるであろう」と言うことには触れなかった。

「干渉+回折」と言うことで、有限幅の二重スリットによる回折に進む。「有 限幅」に関して、単スリットによる回折でsinc関数の前にスリットの幅が掛かることに言及。つまり、スリット幅の効果を無視できる条件は、「スリット幅 がゼロ」ではない。その場合、光強度(は振幅の2乗なので)がゼロになってしまう。コーヒーレンシー(可干渉性)について、まずは蛍光を例に、一回目の遷 移による発光とその次の遷移による発光で、量子力学的な遷移なので初期位相はランダムであることを述べる。そして、レーザーはそういうものでないので、位 相がランダムということはないが、やはり時間が長いと初期位相はずれてしまう。今は時間でなくて、初期位相の位置依存性が問題で、レーザーを用いると、ス リット内の異なる位置を通過した光の間の効果が見れる。質の悪い光だと、その効果が見られずに異なるスリットを通過した光の間の干渉だけになる。誤魔化し かもしれない。

さて、二重スリットによる回折。まず、干渉と同じように一つ目のスリットと二つ目のスリットの真ん中に原点を取って計算する 方法を説明し、「各自でやってみて下さい」とする。一つ目のスリットの中心に原点を取るやり方で振幅の計算を進める。一つめのスリットによる回折が単ス リットによる回折の結果と同じであることに言及。その後、二つ目についても類似であることを述べ、変数変換によって単スリットによる回折の結果と結び付け られることを示す。変数変換のため、大きさ1の位相因子が掛かる。単スリットによる回折の振幅u1を括り出すと、[1+exp(i…)] u1の形となり、cosが出て来ることを示す。つまり、振幅は「干渉×回折」の形になっていた。スリット間隔がスリット幅よりも小さいとして、「干渉×回折」の概略を図示。その後、干渉の明線条件と回折の暗線条件を並べて書き、それらが一致すると干渉による暗線が消失することを述べる。欠線(missing order)という術語を紹介し、次数のことをオーダーと言うことについても言及。

そ れで終わったが、5分弱の時間オーバーであった。「(月曜の)演習では、数値を変えたら問題が解けないという状態でした。例年は基礎知識を問うような穴埋 め的問題のテストを「最初から捨てています」と言う学生が10%くらいるのに対し、対比的に、そのような学生が皆無であったことは、嬉しいことです」との コメントに時間を掛け過ぎたのかもしれない。「最初から捨てています」という果敢な挑戦、というブラックユーモアが余分だったか。フーリエ変換の演習のレポート締め切り等をホームページ上に記しておいたことをアナウンスし忘れ。

講義1 平成28年度第11回目

2016年5月21日。

「成人スティル病の患者が大学教員の職務に復帰した様子を発信し、他の方を勇気付けたい」という意図でブログを綴っています。このところ、多忙でその発信が少し遅れ気味になっています。演習の自分の担当分は終わったのですが、試験で学生がはずしてしまいました。詳細は、改めて記述します。はずして困るのは、本来は学生の方なんですが、添削と解説付き略解の作製等に時間を取られていました。

5/20は、先週の続き。つまり回折理論の「理論」の最後。フラウンホーファー回折まで説明し、フレネル回折については「お話」だけで終わらせる。フラウンホーファー回折については、平行光が回折される場合について、別個に説明。これは、平行光が回折される場合、傾斜因子を別個に説明したのと似ている。ただ、傾斜因子については、それによりホイヘンスの原理による説明では排除できなかった逆進する光が、回折積分では自動的に排除される結果になることを強調するもの。平行光の場合のフラウンホーファー回折は、「開口の大きさ」と開口と観測面との距離という具体的な変数で表現できるので、単純化されていいと思う(もちろん、今の段階では、回折積分では開口関数の形で入っているので、「開口の大きさ」にはなっていない)。その式の中、分母に波長λと開口の中心と観測面の中心の距離Rが積の形に入っているので、Rを倍しにして拡大した回折パターンとλを倍にして拡大した回折パターンが同じものであることが、わかる人にはわかる、とのコメントを加えた。

フラウンホーファー条件については、毎回少し丁寧にやっている。回折積分の被積分関すをexp(ikr)だけの形に近似するためには、開口面と観測面の距離が波長よりも十分に大きいことが必要だったが、これは一般的な光学系で成り立つ。それに対し、「回折積分フーリエ変換になる条件は、そんなに一般的ではない」と言う話。まず、近軸光を対象にすることを述べる。その後、exp(ikr)のrを開口面上をスパンする積分変数で展開して、一次までで近似できる条件を定式化する、と言うように進める。重要なのは、それが成りたたないケースは希ではないこと。具体的な、例えばカメラ程度の大きさの光学機器を想定すると、微妙である。そして、フーリエ変換レンズの話をする。

理論を終えたら、次回から具体的な計算に入る。それにより、回折に関する概念を身に着けてもらう。計算に一杯になってしまうと、その目的が果たせないので、理論が終わったらフーリエ変換の演習を行う。既に先週に問題は渡してある。締切は二週間後。喉がガラガラで「二」に濁点がついたように聞こえていたか。目標1の試験の採点もある。

講義1 平成28年度第10回目

2016年5月20日。

5/18は、10回目の講義だが、目標1の試験を実施。目標1の7回目の講義から約2週間おいての試験。教科書を読めば点数の取れる内容。授業中に述べた「ツボ」も少々。丸暗記は無意味で有害ですが、教科書を読むことはメリットがあります。つまり、公式を丸暗記する形だと、記号が違ったり、記法や用語が違った途端に「わかりません」「授業で習ったのと違います」などの反応になり兼ねない訳です。私は、従って、公式に基づいて問題を解く課題は、レポートとして十分な時間を与えることにしています。教科書をじっくり読む。中には、行間が読める学生がいるんですね。読書百遍意自ずから通ず。

試験が終了してから、簡単なコメント。まず、マクスウェル方程式のところの穴埋め問題について。今回は、「私は材料系の教員ですが、第一級陸上無線技術士という通信のプロの資格を持っています。○○工学科だと無線工学の基礎という科目は、単位を取得していれば免除になります。工学の基礎に『電気物理』という分野があり、そこでそのっような穴埋め問題が出ることがあります。」というサービスを。次は、教科書の当該の箇所を開きながらの解説。今回初めて、次の記述が正しければその旨を述べ、間違っていれば誤りを正せ、と言う問題を出題。いいんじゃないかと思う。

新入生に対する導入教育のプレゼン3回目と4回目

2016年5月19日。

5/17に3回目、本日が4回目のプレゼンで最終。

演習の試験の採点に時間を取られ、うっかり3回目のプレゼンの最初のグループのに間に合わなかった。3回目には、嬉しい内容が2つあった。ひとつは、大学は基礎研究をし、企業が実用化を行うような「分業」が今後は必要になってくるのではないかという観点を述べてくれたもの。もうひとつは、ITの「罪」と言われているものは、たまたまITがそれが表に出る舞台だけだったのであって、ヒューマンエラーなのだ、という気付き。

前者については、基礎研究に対するクラウドファンディングにも既に気付いていた。ただ、例えばと断って、5年後に実用化の目処がある基礎研究には研究費が付くが、50年後だと付かないという例を出し、対策の前に理由を問うたが、対策のみについての応答であったことは残念であった。

後者に関し、工学倫理ないしは科学者・技術者の倫理で教える、安心と安全の区別に自ら気付いてくれたことが嬉しかった。自動車は必ずしも安全ではないが、安心してしまって、日常生活の「ふつう」になってしまっている。人間が操作を誤れば、事故が起きる。ITの危険性も同じ性質のもの。全くその通りです! 更に、いじめを例に、学校でいじめが起きるのは「いじめの舞台となりやすかったため」で、ネットいじめも同じ。人間に問題が内在しているのであって、それを学校が問題(学校がなければいじめは起きない)というのは間違い。ネットをはじめとしたITでも同じ。こういう指摘は嬉しいね。もうひとつ、「AIの人権」と言うことで、目から鱗の発想の転換に気が付いた。AIに人権を認めるべきでなく、誤動作を起こす(間違った学習の結果になってしまった)AIは停止させるべきと言う主張は自然でしょう。AIに人権を認め、誤った人格に成長してしまったAIには、人間と同様に刑罰を適用するような措置をして、停止させる、と言うのがあり得るんですね。

4回目のプレゼン。だんだん洗練されたプレゼンになっている。内容としては、バーチャルリアリティ関連のものがあった。私は、ICUで3日間昏睡中に「見た」ものがあったわけで、「それ」が最終的には残るのかな、とも思います。つまり、電気信号に変換されたものを、脳がどう感じるか? バーチャルでも、当人にとってはそれしかない訳です。脳内の電気信号が全てだったものが、いざ生還すると、最低限の生体機能だけが残った自分、自分がいた訳ですが。わざわざ、フィジカルがあるのを捨てて、脳内の電気信号だけの世界に入ることに「勿体無い」と思うこともできます。

さて、バーチャルリアリティーのデメリットについて。バーチャルリアリティでなくとも、引きこもってゲーム漬けの生活になって、体力が衰えてしまうケースがあるとの指摘。筋肉が衰えてしまう、と言うことに対しては、神経を刺激してホルモンを分泌させて筋肉を保つことはできるという指摘を私はした。それに加えて、しかし、骨は衰えてしまうでしょう、とも。いずれは、骨が衰えないようにすることもできるようになるかもしれない。すると、IT認知症とか、ITの害で「現実の”ひと”との距離感がわからなくなってしまった」というのも、それを治療するような神経への刺激法が開発されるのかもしれない。

社会貢献をするために学んでいる、というセンテンスを含んだプレゼンがあった。どの学科でも社会貢献をしたいと思って学んでいるんでしょ? そうでないもの、学問ってあるの、って意地悪質問になるが、って断ってしてしまった。どうやら、「工学倫理や科学者・技術者の倫理の問題で、ディストラクティブになることがある」との指摘だった。うわ!!! 戦争を推奨するような論理以外に、あることに気付いてしまった。優生学! いや、政治の場に優生思想が出てくると危険なのか・・・

AIの「天使」と「悪魔」の表裏一体性

2016年5月17日。

5/15(日)のNHKスペシャルを見ました。

まずは、羽生名人がAIの開発者と英語で議論するのに感嘆! 我々大学教員が「隣の分野」と英語で議論するときと同じ程度の英語。

AIについては、既に新入生に対する導入教育のプレゼンの1回目2回目でも触れている。特に、1回目では「モンテカルロシミュレーションの専門家としての見解」を追記した。擬似乱数に基づいた計算法全般に対して、モンテカルロ法という語が使われる。例えば、ヒットミス法で円周率を求めるのもモンテカルロ積分である。単位円の面積が円周率πに等しいので、例えば-1から1の間の二次元の乱数(乱数の二個の組)を発生させ、その点が単位円内に存在する確率を求めれば、円周率に一致する訳です。モンテカルロシミュレーションの例としては、論理的にわかっている確率分布に従う乱数を発生させる「スマートモンテカルロ法」を挙げることにしよう。もし、その確率分布が正規分布ならば、正規乱数のアルゴリズムに従って発生させた擬似乱数がその現象のシミュレーションとなっている訳です。

私がここで指摘したいのは、「擬似乱数」について。別の言葉で言えば、乱数の精度。簡単な擬似乱数として、0と1の間の一様乱数を12個足して6を引くものがある。2n個足してnを引くのが一般化で、n無限大で正規乱数に収束する。Pr(x)が正規乱数ならば、どのxについてもPx(x)≠0である。しかし、一様乱数を2n個足して得られる近似手的な正規乱数では、Pr(|x|>n)=0である。

羽生名人が慧眼だと思ったのは、「AIによる検索では、人間が見落としてしまうものを拾い出すことができる」という言葉。将棋に関して言えば、AIによって人間が見けられない「定跡」が発見できる。ひいては、将棋の解が見つかってしまう可能性がある、ということ。もちろん、AI将棋が強くなったのは、「無駄な検索」をしないプロ棋士の流儀をならったからなのは言うまでもない。

表裏一体をわかっている。Pr(|x|>n)=0な擬似乱数を使っていては、|x|>nの事象は最初から切り捨てられてしまう。人間が経験に頼って取捨選択をする場合、正規乱数に従う場合には切り捨ててしまう「細い」事象を残すことがある。そのようなものよって、計算機では不可能が「直感」を生じる。表裏一体なのは、切り捨ててしまうものがあるからこそ、人間の限られた情報処理能力でも「細い」事象を扱えること。AIだと、人間が切り捨てえてしまうのもを切り捨てずに新発見を行う可能性がある。しかし、擬似乱数である以上、「細い」事象の大部分は切り捨てになってしまう。たとえ、擬似乱数が改善されたとしても、デジタル信号であるので、ある程度小さい確率はゼロとみなされてしまう。

人間の情報処理能力では切り捨てしまうものをAIによる検索では残し、AIによる検索では切り捨てになってしまうものを人間がAIによる検索に追加してやる。これが前向きだろう。デジタイズによって落ちてしまう情報も、試行回数を増やせばモンテカルロシミュレーションで拾い出すことができる。しかし、その方向性は「悪魔」かもしれない。人間の経験ではこのような対処をするが、AIの試行回数が少なくてそのような対処をする選択肢が表示されなかった場合、「今は、初期段階だからAIの出した処方に従い、死んでも仕方がない(医療の場合)」は、悪魔的に思える。人間の処理能力には限度があるから、主治医の出した選択肢の中に生還のものが含まれてなくても、受け入れるしか仕方ないというのも、裏返しの悪魔的とも。行過ぎた競争をしたら、そうなり兼ねない。相補的であれば、天使になり得るのでしょう。

演習 平成28年度6回目

2016年5月16日。

自分の担当の5回目なので、試験。試験中の感じでは、昨年度よりも出来が悪いかな、と言う感じ。正確には、昨年度のような「ストレートなひねり」は致しませんでした。つまり、昨年度は、『演習問題では・・・だったが、「一般解はどうなのだろう?」という姿勢を見たいので、一般解を問う』という問題を出しました。今年度は、はやめました。その表れは、留数定理を使った積分の計算問題。被関数を分子がx2で、分母が(1+x2)(1-2ax+x2) [ただし、|a|<1]とはせずに、分母を(1+x2)(1-2sinθx+x2) [ただし、-π/2<θ<π/2]としたものに。授業中の演習問題は、分母が(1+x2)(1-2cosθx+x2) [ただし、0<θ<π]。|a|<1を満たすaをa=cosθと表すか、a=sinθと表すかであって、同じ問題。試験終了後に聞かれ、θをπ/2ずらして定義すれば(Φ=θ+π/2など)、演習問題と同じになりますよとコメント。もちろん、aのまま解く解放の指針も。

先週は、朝は上着(ジャケット)を着て出掛け、昼間に脱いで、晩にまた着る、といった陽気でした。疲れてました。もう、上着は要りません。しかし、今日は疲れてます。その中、講義1の演習の採点を早急に終わらせ、来週に演習の試験の採点結果を返せるように、と奮闘しています。

講義1 平成28年度第9回目

2016年5月13日。

例年通り、まずキルヒホッフ近似を用いて回折積分を書き換え。その後、開口面に垂直にz軸、開口面内にxy面をとって少し具体的に式変形。その後、開口面と観測点Pの距離および光源Qと開口面の距離が光の波長に較べて十分長いという近似を行い、被積分関数を「傾斜因子」×exp[ik(r+r0)]/rr0の形に変形(rは開口上の点X(x,y,z)と観測点Pの距離XP、r0は開口上の点X(x,y,z)と光源Qの距離XQ)。

傾斜因子と分母のrr0をそのまま積分の外に出している教科書に表記が気に入らない。開口の中心をX0として被積分関数の分母でrをR=X0P、r0をR0=X0Qで近似する、として積分の外に出す。同様に「傾斜因子」についても、本来は(x,y)の関数だが開口の中心によるもので近似と。今までは、教科書の説明の「指数関数の肩に乗っているr+r0に対し同様な近似はできない。なぜなら、指数関数によって少しの変化が増幅されているから。」と言うようなもので済ませていた。今回は、それに加え、波数k=2π/λで波長λが数百ナノメーターなので、波数が大きな数になってるという説明を加える。これは、光学系を組むときに、光源と開口の距離や観測点と開口の距離が数メーターとか数センチなのに対し、波長λが数百ナノメーターであるという、一般的な条件である(ik-1/r~ikおよびik-/r0~ikとコンシステント)と。

これで、観測点Pでの振幅がuP∝∫∫exp[ik(r+r0)]dxdyと、フーリエ変換に結び付けられそうだと思うでしょう。次回は前半の試験で、次々回に「観測点での振幅が、開口部で1、それ以外で0となる開口関数f(x,y)のフーリエ変換となる条件」をやります。それをやってから、フーリエ変換の演習問題をやります、と予告。途中でフーリエ変換の演習問題を配布したが、余りいい休憩にならなかた。自分自身、「傾斜因子」を説明する図は”グチャクチャ”であった。

疲れたのは、講義前に超純水装置の移設を業者に方にしてもらうのに立ち会ったことも会ったのかもしれない。一昨日よりも昨日はましであったが、今日は昨日よりもまし。