講義2 平成29年度 第9回目

2017年7月7日。

後半の第2回目。前回の最後に定義した化学ポテンシャルについて。節タイトルは、化学ポテンシャルの性質となっているが、その前半は相平衡の条件。化学ポテンシャルが熱力学ポテンシャルをモル数で微分したものと等しいことは、前回は単なる関係式だったが、今日はその意味を。私は、等温定積系の二相平衡をヘルムホルツエネルギー最小から導出することをやっている。二相の圧力が等しいという相平衡の条件の一つが、二相界面をどの位置に持って来たら圧力の釣り合いが実現できるかという、力学的平衡の条件であることがわかるから。物質移動に関する平衡の条件のみが出てくる、等温定圧系でギブスエネルギーを最小にする方法では、力学的平衡の条件が二相の圧力が等しいことを「同様に」で説明しづらい。それならば、エネルギーの移動に関する平衡の条件も出てくる、内部エネルギー最小でやればいいでないか、と言うことになるが、TV一定はイメージが簡単だが、SV一定は少し困難がある。従って、エネルギーの移動に関する平衡の条件が二相の温度が等しいということは、同様で済ます。元も、孤立系のエントロピー最大ならば、困難はないが、何のために熱力学ポテンシャルを定義したのか、と言うことになってしまう。

ギブス関係式、オーラーの関係式、ギブス・デュエム関係式については、内部エネルギーUがS,V,nの一次の同時式であることからスタート。教科書のように、等温定圧でのギブス・デュエム関係式Σndμ=0では終らない。単成分についてdμ=-SmdT+VmdPで終り、次の理想気体の化学ポテンシャルへつなげる。添え字のmはモル量(モルエントロピー、モル体積)であることを表す。

理想気体の化学ポテンシャルは、ギブス・デュエム関係式dμ=-SmdT+VmdPから出てくる(∂μ/∂P)T=Vm積分するのみ。するとμ(T,P2)=μ(T,P1)+RTln(P2/P1)は、即座に出て来る。理想混合気体のμi(T,P,{xi})=μi*(T,P)+RT ln xiは、G(T,P,{xi})=G*(T,P)+ΔGmix; G*=Σniμi*(T,P), ΔGmix=RTΣniln xiから。

質量作用の法則のところは、化学量論係数を定義し、反応進行度を導入し、それを用いてギブスエネルギー最小を論じるだけ。化学ポテンシャルの式まで変形したら、後はμi(T,P,{xi})=μi*(T,P)+RT ln xiを適用したら、質量作用の法則になる。

6分オーバーしてしまった。指がこわばって板書に難があったことは確か。「エントロピー、増えようが減ろうが知ったことかい」と言う川柳(?)を紹介したのは余分だったかもしれないが、印象に残って欲しいとは思う。

○合事前審査

2017年7月6日。

博士後期過程の学生の指導資格のことを〇合という。

研究部で統一された基準ほぼギリギリで出された方と私の2名が〇合「事前審査」に通った。まだ「事前審査」の段階で、事務に提出した書類を学科に戻して審査(いわば予備審査かな)した後、研究部での審査をもって完了となる。

私の所属している学科では、申請調書の提出前に、いわば事前審査を行っている。かつて「教授に該当する」というのが〇合の前提だった。それを引きづっていて、私の所属学科では事前審査を通った前例はなく、〇合准教授が他学科から移ってきたものを除けば、〇合の合格者はゼロであった。正確には、学部と研究部が別組織だった頃に、研究部の審査で〇合にパスした准教授はいた - A学科の材料系は材料系の研究部に所属、A学科の情報系は情報系の研究部に所属の頃の話・・・具体的には、情報系にはレター=速報の概念がなく、例えばPhysical Review Lettersでもショートペーパー扱いになってしまうが、そういうことをせずに分野標準で評価していた頃の話。

上の例だと、情報系の基準を杓子定規に適用して、レター(短報でなく、フルペーパー(full length paperと言った方がいいかも)の速報も含む)を排除した上で論文数をカウントすることをやって、他学科ならばらくらく〇合合格の業績の教員が〇合に通らない不公平がおきる。研究部の上部の方が不公平さをなくしたい意向を示している、と言う背景が生じた。

講義2 平成29年度 第8回目

2017年7月5日。

講義2の8回目は、後半の1回目。第二法則で熱力学の本質は終っている。後半は自由エネルギーを用いて第二法則を書き換えること。そして数学的に扱いやすい形にして、様々な応用へ。本質的には新概念は、ない。

熱力学ポテンシャルと言う語を必ず紹介している。一つは、自由エネルギー最小が経項状態を与えるという、力学的釣り合い=力学的ポテンシャル最小と同様な意味があること。もう一つは計から取り出せる仕事の最大が熱力学ポテンシャルの差になるという、力学的な系の最大仕事と同様な意味のあること。後者を先に説明し、前者を孤立系におけるΔS≧0と同じように説明した。

熱力学の関係式の説明。どの変数を制御した実験を行い、どの量をどの変数の関数としてそくていするか、ということを毎回言うようにしている。

最後に開放系において系に物質が流入したときの仕事の表現と言う観点で科学ポテンシャルを導入。熱力学ポテンシャルをモル数で偏微分する定義については、次節(次の時間)にやるところと関係している。次回に詳細にやります。待てない人は、教科書に書いてある程度のところを自分で読んでおいて下さい。

 

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博士前期課程講義 平成29年度 12回目

2017年7月4日。

フラクタル次元の解析法で既にやっているものお除いて紹介。スケール変換法は、ダブって説明。視野拡大法を説明するために必要。視野拡大法の「発展形」として回転半径法。高分子については、まさにぞれそのものが出てくる。DLAなどの成長するパターンについては強力。一つのバターンがあって、それに回転半径法を適用することはできない。無理やり適用した形の例が載っている教科書の例は紹介。密度相関関数法は、一部は済み。フラクタルバターン以外についても、相関関数は計算して見るといい。フラクラル以外に適用できるものとして、アイランドのサイズ分布の解析がある。

今日は、体がだるい。胸が苦しい。まさに梅雨の天候だから、だるいのかも知れない。気の利いたことは、一切やらずに終了。

講義2 平成29年度 第7回目

2017年6月30日。

今日で6月も終りですね。熱力学第二法則も今日で終わりです。今日は、エントロピーの計算を行います。その後に第二法則に付随する事項をやります。前半のレポート課題も配布する。嫌なことも通知しなければないらい・・・本年度は、出席の不足している学生にポートフォリオを提出させて(試験を受けるに値するだけの学習を尾行っているかチェックして)、試験の受験資格の認定を行うことはしない。もう、一杯なので、他の職務に支障が出てしまうから。

まずは、第一法則のところの演習問題の回収。

dS=d'qrev/Tを印象付ける話で、可逆的食物摂取の話。冗談ぽい話がツボにはまって、理解を深めたり、記憶に残ったりすることがある。生身の人間が講義する意義。今日の私の体温は36.5℃でした。いつもは36.1-2℃なので、膠原病の関節症状があって、熱が少し高いのかもしれません。これは、十数年前の学生が言ったことですんので、冗談で言ったのかもしれません。今日は36.5℃で〇〇カロリーを摂取したんで、これだけのエントロピーを増やしました。普段だと、もう少し体温が低いので同じカロリー摂取でもエントロピー増加は少し多いことになります。ポイントは、「可逆」です。可逆的にカロリーを摂取した場合はそうなります。可逆的食物摂取と言う話に進むと、飛んでもないことになります・・・。摂取したカロリー排出すれば元に戻ったことになるのでしょうか。あなた自身、系は元に戻ったのかもしれませんが、環境は元に戻りませんね。

そんな話をした後に、エントロピーの計算を。まずは、理想気体の等温膨張。次いで温度変化に伴うエントロピー変化。相転移に伴うエントロピー変化は、相転移熱の説明が薄かったので、それを補うように話した。第一法則のところの順番だと、次は反応エントロピーとなるが、それは別の章で詳しくやることになる。混合のエントロピーは、少し仰々しく。理想気体の混合の場合は、等温膨張と同じだが、仰々しく「混合のエントロピー」といって、モル分率を使った式を書くのがためになる。つまり、理想気体でなくても、分子の(大きさ)相互作用がなければ同じものが出てくる。

エントロピーの分子論的な意味を説明し、第三法則について話した後、マクスウェルデーモンの話もする。皆さん、神様の話し、待っていたでしょう。反省してもうエントロピーを増やすことはしませんので、神様、私が無駄に増やしたエントロピーを元に戻して下さい、の話。可逆的カロリー摂取/食物摂取と同じで、印象付けにしかならない人もいれば、高度な話として捉えられる学生もいるかもしれない。あ、その前に「可逆」について。医学などでは、例えば関節が変形してもそれが元に戻せたり、胃に穴が空いても元に戻せたりする場合に「可逆」、そうでない場合に「不可逆」っていいますね。体に不可逆変化が起きてしまうと、今後の人生が大変になりますよ。環境に変化を残したくないと言って、体が不可逆な変化をしてしまわないように。さて、神様の話。物理学では、神様でなくてデーモンって言葉を使います。まじめに議論されてきた話です。気体の自由膨張を考えましょう。不可逆変化ですね。ところが、気体が入っていた容器と真空だった容器をつなぐ管を分子1個が通る程度の細さにし、分子が右向きに動いていたらシャッターを閉め、左向きに動いていたらシャッターを開けるという操作をしたとしましょう。元の状態に戻ってしまいますね。このような操作をするデーモンをマクスウェルデーモンって呼びます。昔はデーモンだったかもしれませんが、今は計算機制御で分子を識別してシャッターを開け閉めする装置はできそうですね。デーモンということで計算機の電力は問題にならない程度に理想化したとしましょう。その場合、自由膨張を行う前の状態に戻ったのですから、系のエントロピーは減少しますね。最新の研究によると。計算機が情報処理を行ったことに伴うエントロピー変化と系のエントロピー変化を合わせると、トータルではエントロピーが減少することはないということです。管とシャッターの系にとっては、計算機は外界だったのですね。

博士前期課程講義 平成29年度 11回目

2017年6月28日。

昨日の講義には、難解なハウスドルフ次元の話が含まれる。講義1の採点を今月中に終らせようと悪戦苦闘しているなかで、どこまでできるか。正確にやりつつ、ある程度はわかった気にもさせる必要がある。

ベクトル空間の次元から入り、位相次元を説明。その後、ハウスドルフ測度などの数学の準備を行った後にハウスドルフ次元へ。相似次元を再定義。最後にボックスカウント次元の定義。ハウスドルフ次元が従来次元を含むことは説明した。ボックスカウント次元がハウスドルフ次元の簡略版の意味を持っていることも説明した。

実は、本日は代休。臀部皮膚膿瘍/粉瘤の切除。

講義2 平成29年度 第6回目

2017年6月23日。

もうこれで「補講を受けられなかった学生」にわずらわせられるのはやめられる・やめよう。

さて、本日は熱力学第二法則の2回目。カルノーの定理、熱力学的温度、クラウジウスの式(不等式)と進んで、最後にエントロピーの定義を行う。高校で化学を履修していない学生ばかりなので、既に戸惑うところはあった。しかし、本日の内容については、問題ないだろう。前々回の相転移熱(潜熱)や反応熱は、化学を履修していないことをもっと意識したやり方にすべきだった。次回の相転移や反応のエントロピーのところでは、そうしたいと思う。

カルノーの定理の証明は、トムソンの原理とクラウジウスの原理の等価性を示すのと同様に、背理法を使うもので、論理学にアレルギーを持っている学生にとっては、うんざりでしょうね。その前に、トムソンの原理で否定されているサイクルが存在すると仮定すると、クラウジウスの原理で否定されている過程が「合成機関により」実現できてしまう。カルノーの定理で否定されている過程が実現できたと仮定すると、トムソンの原理で否定されているサイクルが「合成機関により」実現できてしまう。と再度繰り返し、「合成」を強調。熱機関・過程を分解して、トムソンの原理に反する部分を分離するとか、クラウジウスの原理に反する部分を分離するというのは、取り出した部分が熱機関・過程として動作するかの保障ができない。合成ならば、そのようなことはない。エンジンの1/2のミニチュアを作ったら、それを二つ合成した熱機関が元のエンジンと同じだとは保障できないし、ミニチュアが動作するとは限らない。エンジンを相似に縮小した場合、摩擦の割合が増加するので、縮小度合いによっては動作しなくなる。その前置きの元、カルノーの定理(の後半)を否定すると、クラウジウスの原理に反する過程が合成機関によって実現できてしまう説明を行う。基本的には、教科書の通り。次に、カルノーの定理(の後半)を否定すると、トムソンの原理に反するサイクルが合成機関によって実現できてしまうやり方のポイントを説明。カルノーの定理の前半は、後半が証明できれば、理想気体を作業物質としたカルノーサイクルの計算は行っているので、自明。

熱力学的温度は、おそらく論理学をやると更にうんざりする学生が出るだろうから、ポイントだけを述べることににする。可逆サイクルによって、熱源からサイクルに流入・熱源へサイクルから流出する熱によって定義する、とポイントだけをまず述べる。可逆サイクルの場合に、サイクルの一方がカルノーサイクルの場合の式から、比例することを説明。原点が経験的絶対温度と一致するように選ぶと、熱力学温度と経験温度は一致するから、今後は同一視する。例年はこれで終ることも多かったが、少し余裕があったので、サイクルを縦に並べて、二つのサイクルの間の熱源を含む合成サイクルを考えることにより、サイクルへ流入する熱とサイクルから流出する熱の比が、高温熱源と中間熱源の温度の関数でもあり、同時に高温熱源と低温熱源の温度の関数でもある、と言うようなことが出てきて、最終的に「熱源からサイクルに流入・熱源へサイクルから流出する熱によって定義する」形にできる、と少し説明を加えた。

カルノーの定理からクラウジウスの式へは、省略はしない。それを省略したら、何のために「苦手な論理学」に基づく、”「トムソン⇔クラウジウス」⇔カルノーの定理”をやってきたのか、ってことになる。まずは、系(=サイクル)のエネルギーが増加する方向を正の方向にとる流儀に戻すと言って、カルノーの定理(の後半)を熱と温度で書き換えた式を変形して、熱欲が二つの場合のクラウジウスの式を導出。これが本質なので、後は説明を省略して、熱源が複数の場合と熱源の温度が連続的に変化する場合のクラウジウスの式を書く。

最後にエントロピーを定義する節へ。いつものことだが、エントロピーについては「新しい状態量を定義します」「新しいことを(単なる高校の熱力学の拡張ではないこと)を学びます」と言うことを強調。クラウジウスの式(不等式)で等号が成り立つのは、可逆過程のときだということを強調する板書を。可逆な経路に沿ってd'q/Tを積分したものとして、エントロピー差ΔSを定義。可逆な場合は、クラウジウスの式が、d'q/Tの周回積分がゼロになるという形になり、状態量の性質の式となるので、新しい状態量の存在が示唆され、それがこのように定義されるエントロピーである。エントロピーを用いてクラウジウスの式を書き換え、孤立系に適用して、熱力学第二法則エントロピー増大則と表現できることに言及。さて、今まで、一般性のある表現への熱力学第二法則の書き換えを行ってきたが、ここで孤立系に限定した表現になっていまい、戸惑っているのではないか? 孤立系に対して、エントロピー増大則とかエントロピー最大の原理とかの表現が、はやり一般性が最も高いから相するのです。系と外界を合わせて、全系が孤立系に成るように外界を定義することができるという訳です。系の状態量で記述するのが便利だという話を以前にしましたが、外界を含めて考察する必要が出てきてしまっていますが、それでもエントロピー増大則が一般的なのです。

昨年度の記録を見ると、「神様、もうエントロピーを(無駄に)増やすことはしませんので、これまでエントロピーを増大させてきたことはなかったことにして下さい、と言ってもできない」ことについて言及ていました。それは、次回に致しましょう。ビーカーとウオーターバスを全系とみなせば足りる場合、実験室を全系とみなせば十分な場合、地球全体を全系といて扱う必要がある場合、地球+その周りの宇宙の場合、更に外側の宇宙・・・(たとえ宇宙が開放系であったとしても、エネルギーの伝搬速度は有限、光の速さを超えませんので、光の速さ以上でしか相互作用できない外側は考慮しなくて良い訳です)「と話をしましたので、熱死と言う言葉を紹介して終わります。全宇宙のエントロピーが最大に達したら、それで平衡なので、宇宙は何の変化も起きない、死んだ世界になってしまう、言う話です。さて、宇宙全体を孤立系として考える場合、どんな現象が熱力学の対象となるんでしょうかね。