講義2 平成28年度第3回目

2016年6月17日。

講義2の3回目。今回と次回で熱力学第1法則。状態量の性質、仕事と熱、熱力学第1法則、準静的過程、エンタルピー、熱容量。第一法則は、エネルギー保存則の拡張に過ぎない、と言う立場で説明している。分子的描像の助けを借りて進める。丁度、前回に期待分子運動論などをやっているので、「分子間ポテンシャル」」と言う語をイントロダクションにしたらいいかもしれない。

状態量の性質と言うのは、二つの状態の間の状態量の差(変化)は、途中の過程によらない、というもの。第二法則のところで重要性のあるもの。むしろ、次の「熱と仕事」について、いずれも状態量でないことを強調するところか。尚、仕事に関しては、静水圧による仕事という術語を出す。

熱力学第1法則として、仰々しくやるならば、「内部エネルギー」という新しい状態量の導入となる。公理的熱力学としては、意味があるやり方である。上述のように、内部自由度に対するエネルギーとして説明し、今までの知識で理解可能であるという立場。材料創成や応用をターゲットにするのが、受講生の平均的なところに合うやり方であろう。もちろん、理論物理学や数学への方向転換は、するものがいても構わない。

準静的過程もむしろ第二法則の関連。変化の途中でも状態量が決まる、という熱力学の流儀に慣れさせるのは、いいと思う。変化の途中で状態を決める段階を、有限な過程を無限個の微小過程に区切って実現しようとすると、微小時間×無限個の過程の数=無限大となり、実現不可能となる。これに目をつむって定式化するのが熱力学の形式で、ここを乗り越えられるかどうかが、「熱力学は難解」を克服するミソでしょう。

エンタルピーの前に、定積と定圧の区別について明記。孤立系、閉鎖系、開放系のところを復習してから。その前に、熱容量の話。まず熱容量(比熱)を思い出させるは話をする。次に、熱容量の定義式を書き、それが過程依存することを述べる。熱は状態量でないから、過程に依存する。さて、第1回目に(補講で)説明した閉鎖変化には、定積過程と定圧過程がある。定積変化では、体積変化がないから仕事がゼロであることから、熱力学第1法則がΔU = qとなり(過程依存をあらわに表すなら定変化を表す添え字Vを熱qに付ける)、それから定積熱容量が内部エネルギーの温度微分で与えられることを説明。次いで、定圧変化について説明。圧力一定だから、仕事は静水圧によるものである、として第1法則の式を書き換える。その後、さてここで新しい状態量H=U+PV(エンタルピー)を定義しましょう、とする。そして、定圧熱容量の式を書く。熱は状態量でないから、過程を指定して計算しなければならなかったが、内部エネルギーやエンタルピーという状態量の偏微分で表せることがミソ、と言及。

もう少し余裕を持って(途中で休憩を取れるくらいに)やりたかったが、時間一杯やってしまった。熱力学の名を含んだものに機械系の熱力学があり、エンジン=内燃機関(の効率)を論ずる体系である。最初の時間に紹介したように、巨視的な体系としては、非平衡を扱う流体力学がある。また、熱工学として伝熱工学がある。化学工学にも熱工学がある。化学工学は、プラント管理、大きなリアクターの中でどんな物質熱輸送が起こっているか、リアクターにおける熱の出入り(エンジンのように)を扱う体系。というのを、化学工学の講演会の紹介を講義の冒頭でした関連で話した。時間的には余分であるが、「俺が講師なのだから、俺が講師であるから」というところが、講義のメリットでしょう。つまり、それをやらなかったら、忠実に教科書にしたがて自分のペースで自習して下さい、に対する優位性がなくなってしまう。

講義2 平成28年度第2回目

2016年6月15日。

平成28年度の講義2の2回目。気体分子運動論、実在気体(ファン・デル・ワールス状態方程式)、実在気体の液化。

まず、前回の補講に出席できなかった学生のための軽い補足。目次を見て、第三法則が第二法則の章の中の一節でしかないことに言及。それは、第三法則がその程度の、第二法則の補足程度の意味しか持っていないから。前回やった第ゼロ法則と第二法則が重要。物理系の熱力学と化学系の熱力学は、内容としてはほぼ同じだが、語法等に少し違いがある。として、化学熱力学では推移則としての第ゼロ法則に重点を置くが、物理では平衡状態の存在することの重要性を説く。私は、物理出身ですが、前回にゲルをベースとした材料開発の研究関連の用事で休講にしたように、化学に近いところが研究分野です。折角私が講師なのだから、メリットを生かすのがよい。物理系と化学系の間で会話ができるようにと言う意識をもって講義をします。

熱力学は原子分子に立ち入らない学問体系でした。公理的熱力学といって、完全にその形式で進める熱力学もあります。理論物理学としては意味がありますが、材料創成や材料の応用を目的とした場合は、適宜分子的な描像の助けを借りて、理解を深め方がいい。といって、気体分子運動論=初等気体分子運動論へ。結局はエネルギー等分配則がミソ。また、温度は、ボルツマン定数を掛けてエネルギーの単位に換算すると、kBT/2が一自由度当たりの運動エネルギーに等しい。これが、温度の正体でした。

ファン・デル・ワースル状態方程式も、公理的熱力学の体系よりも、分子論的な描像を用いた方がいい。初等気体分子運動論では、分子に大きさも分子間引力もないとした。ここでは、分子の大きさの補正と分子間引力の補正を入れると状態方程式PV = nRTがどのように変わるかをやる。分子の大きさの補正は、分子が自由に動ける空間が現象すること。分子の体積をvmとすると、V → V - Nvm(分子数Nは、気体分子運動論のところで導入済み)。ここで、Nvm ∝ nだから、V → V - nbとなる。次に引力の効果。分子が壁に衝突する絵を描いて、分子間引力により、衝突する分子が減速され、減速の度合いは単位体積当たりの分子数N/V(∝ n/V)に比例することを説明。更に、その効果を受ける分子数もN/V(∝n/V)に比例することを説明。少し難しいかもしれないが…といいながら、V → V - nbによりP = nRT/V → P = nRT/(V-nb)となり、更に→ P = nRT/(V-nb) - a(n/V)2と書き、最終的に[P+a(n/V)2](V-nb)=nRTを得る。

気体の液化のところでは、まずモル体積Vm = V/nを導入して理想気体の状態方程式をPVm = RTと書き換える。ファン・デル・ワースル状態方程式も(P+a/Vm2)(Vm-b) = RTの形に書き換え、希薄つまりVmが大きいときにPVm = RTになることを説明。次に、分母を払うとファン・デル・ワースル状態方程式はVmの三次方程式になるから、一般には解を3つ持つことに言及。そして、P = TR/(Vm-b) - a/Vm2と変形し、高温ではa/Vm2が無視できることを説明。すると、P-Vm図において、高温でPVm = RTに近づく曲線となり、低温ではSを横に倒したような部分をもつ曲線になる、と。さて、その境界を求めましょう。教科書では(P+a/Vm2)(Vm-b) = RTから分母を払った三次方程式が三重回を持つ条件をその境界の条件として求めている。一般には、P = TR/(Vm-b) - a/Vm2から、(∂P/∂Vm)T = (∂2P/∂Vm2)T = 0から臨界点(TC, PC, VC)を求める。教科書の(TC, PC, VC)と一致することを確かめて下さい。最後に、マクスウェルの等面積則やって本日は終わりです。横S字の上の部分では液相がのみが安定相、下の部分では気相のみが安定相、その間で最安定相、準安定相、不安定相が存在します(3つの解のうち、真ん中の解は圧縮率が負となる不安定相であることは済み)。さて、圧力を下げたときに「液相が最安定相、気相が準安定相」から「液相が最安定相、気体が准安定相」に入れ替わる条件はどこでしょうか? と言う問い掛けをし、答として等面積則を出す。

時間一杯までやってしまったのは、初等気体分子運動論のところがスムースでなかったからか? イントロを繰り返したからか? 授業予定のプリントのミスの説明がくどかったからか? 真ん中くらいで休憩を入れるような余裕が欲しい・・・

講義1 平成28年度第16回目

2016年6月10日。

6/8(水)は講義1の16回目、最終回で目標2の試験と目標2の演習の講評のあとに、授業評価アンケートを実施して、終了。もちろん、目標2の試験の採点だけでなく、目標2のレポートの採点も残ってはいるが。

「多忙に付き、授業の対応は後日」との張り紙を教員室前に貼ったまま、今日は出張。午前中の用事は済み。ホテルへチェックインを済ませ、夕方の用事まで休憩。2年半前の「今生の見納めになるか」というもの、再び遠巻きに眺めることができた。チェックイン時間まで間があったので、少し歩いた。空き時間に研究費の申請書を書こうと思っていたが、そこまでの力は出ない。

試験を眺めた感じでは、「予想通り」良くできている。つまり、「あ、数学的に厳密な定義の記述は、避けたな」と思うもの多数。演習の講評としては、「中には『これだけの暗算ができる』という人は、2-3人とか、いるでしょう。しかし、演習なのでそんな振り、暗算をできる振りをしても仕方ない。」「写経って知ってますよね。それと同じ効果があるので、まず書く。すると、問題が解けるようになって、やがて理解もできるようになる。」

講義1 平成28年度第15回目

2016年6月4日。

6/3の午後イチは、講義1の第15回目。後半の目標2の7回目で、異方性媒質中の電磁波(結晶光学)の2回目。この講義の試験前の最後の授業。

ともかく、屈折率楕円体を使って、「光波の伝搬方向aが与えられたときに、二つの固有モードに対する屈折率を求める」方法をやる。フレネルの法線方程式によるものと同じである証明は、いつも通り省略。教科書では法線方程式でなく、波面速度方程式としていることについては、コメントしょう。位相速度は波面(=等位相面)の伝搬速度のこと(波面法線速度)で、異方性媒質の場合はエネルギー伝搬速度(光線速度)と区別する必要があった。つまり、波面法線aに対するものを、「波面」を省略して法線方程式と呼んでいる。波面速度方程式は、エネルギー伝搬方向の単位ベクトルを与えて光線速度を求める光線速度方程式がすることを示唆する表現。

肝腎の屈折率楕円体の使い方は、屈折率楕円体を描いて、原点を始点にaを入れて、原点を通るaに垂直な平面を「考えて」と言って、それと屈折率楕円体との交線を描く。交線が楕円になることを言い、楕円の軸の半分が二つの固有モードに対する屈折率であり、軸の半分のベクトルが対応する固有モードの電束密度だという説明をする。

次に光学軸の定義を板書。nx = ny ≡ no、nz ≡ ne(no ≠ ne)の場合の屈折率楕円体を描いて(ordinary、extrordinary等についても補う)、この場合はz軸が光学軸となるという説明。二つの固有モードの光波が一致する伝搬方向aという説明を、「あ、光波は一致しませんね。光線ですね。」と訂正。光学軸の数による異方性媒質の分類として、nx = ny = nzの場合が等方性、nx = ny ≡ no、nz ≡ ne(no ≠ ne)の場合は一軸性、全て異なるnx ≠ ny ≠ nzの場合は二軸性。二軸性の場合は光学軸の数は2で、三軸性とか四軸性とかはないという説明。一軸性の場合について、フレネルの法線方程式を解いて、vp2 = vo2の常光(位相速度がaに依らない)とvp2 = ・・・の異常光(位相速度がaに依存)を示す。異常光については、「教科書を参考に」と、式を板書するのを省略。二軸性の場合は、二つのモードがともに異常光、つまり位相速度がaに依存とだけ説明。

結晶の晶系と光学的異方性の関係を述べる。まず、立法晶系の説明をし、その場合に対称性かから等方性(nx = ny = nz)となることと説明。次に、正方晶系、三方晶系、六方晶系の説明をし、長さの異なる軸の方向だけ異なる主屈折率となるから、一軸性になると説明。ここで、教科書に従って格子パラメータa、b、c、α、β、γの話を挟む。α = β = γ = 90°だが軸の長さa、b、cが全て異なるのが斜方晶、α、β、γのうちひとつだけ 90°と異なる(傾いている)場合が単斜晶、三つとも傾いているのが三斜晶。ただし、これらの中で(格子パラメータの間に)特別な関係のあるものについては別の呼び名がついている。等方性、一軸性のもの意外は全て二軸性となる。斜方晶の場合は結晶軸が主軸になるが、それ以外は結晶軸と主軸の関係は複雑になる。

最後に偏光素子について説明をして終了。軸に沿って切り出して二つのモードに対する光線が重なるようにしたものと、斜めに切り出して異なる方向に伝搬するようにしたものに分類できる。前者が位相板、後者が偏光プリズム。位相板は移相子retarderとも呼ばれ、偏光状態の変換が行える。光の進行方向をzとし、ExとEyとの間の位相の差を移送子が変えることを、いい加減な絵を描いて説明。1/4波長板が45°偏光を円偏光に変換することを説明する際に、進相軸と遅相軸の説明も加える。進相軸、遅相軸の違いにより、円偏光の回転方向が違うことを説明。1/4波長板は、直線偏光⇔円偏光の変換を行う。次に半波板について。πの位相を加減すると三角関数(コサイン)の符号が変わることを述べ、それに基づいてθ偏光と-θ偏光の間の変換ができることをまず説明。進相軸と遅相軸の違いは影響しない。同様に円偏光について、(cosφ,sin(φ±π)) = (cosφ,-sinφ)から、回転方向の変換を行えること説明。偏光プリズムについては、教科書プラスアルファのお話で済ます。直線偏光を作るための二コルプリズム、微分干渉法で使われるウォラトンプリズムやサバール板がそれ。

講義2 平成28年度第1回目

2016年6月3日。

6/3の1-2講時は、講義2の第1回目。補講です。正規のカレンダー(学年暦)では、6/10から開始だが、6/10は所用のため休講。某財団の研究助成金の贈呈式に出席するためで、教員が研究の現場にいることは一長一短だが、最先端に触れることができるというメリットを享受するのがいいでしょう、と。つまり、○○の材料開発の研究に助成金を貰いますとのことで、その材料の話を少し。

1回目なのでまずはシラバスと授業の予定表を配布。最重要なのは、担当教員が免疫抑制剤を服用している難病患者なので、他の職務に支障の出ないようにご協力をお願い。インフルエンザ等の場合は出停期間を厳守して下さい。学部では、出停に対して補講をすることは不要となっていますが、私が出停厳守をお願いしているのですから、一人に対してでも必要ならば補講をします。また、それを実施するために、正規の理由がない場合は、補講等はしません。携帯の電源はオフにしなくても構いません。だだし、それは家族の不慮の事故などに対応するためなので、不急の場合の授業中の携帯の使用は慎んで下さい。さもなくば、不測の事態に対しても禁止に繋がり兼ねませんので。

その後、「はじめに」。まず、熱力学は巨視的な見方をする体系の学問であることを説明。統計力学と相補的。統計力学は、分子間相互作用の情報が与えられたら、処方箋に従って材料物性を計算する手法であって、数学(特に積分)の得意な者にとってはルーチン的で簡単ということを述べる。熱力学は、むしろ微分が中心。

早速、序論の講義に入るが、私が担当教員なので・・・「熱力学は巨視的なものの見方をする」ことに関し、流体力学や弾性論の連続体力学も巨視的なものの見方をする学問体系であることを述べる。流体力学も弾性論も機械工学の分野であることを述べる。平衡状態と定常状態を区別すべきであることも述べる。気体の入った容器のピストンを引くと流れが起きて非平衡状態になる例の前に、温度の異なる熱源を両端に付けた物体の温度分布の話をする。平衡系の部分系もまた平衡系であることがポイントだと述べる。後でやる第ゼロ法則とも関係している、と。もちろん、初等熱力学は平衡状態が対象であることは述べる。化学反応速度論は別の学問体系でであることも言う。しかし、化学平衡は対象。学部の統計力学が対象とするのも、同じく平衡状態だということも。またまた私が担当教員だから、非平衡を扱う熱力学もあることにも触れる。熱力学で扱う状態量が「平衡状態でないと定義できない」ことは強調しなかった。

早速、孤立系と閉鎖系と開放系の説明をする。初回のキーは、熱力学第0法則であろう。化学熱力学では、推移則としての第0法則をやるが、系を外界から遮断すると(孤立させると)「十分な時間経過の後に、平衡に達する」ことが最も重要。十分に時間が経過すると「巨視的変化がない状態」になる。それが、熱力学の対象。著名な先生の教科書に「観測手段が発達すると、平衡と見なしていた状態が実は変化をしていることになって、熱力学が変わるかもしれない」と書いてあるが、間違いです! 微視的には、変化はしています。巨視的に見ると「変化がない」というスケールが存在するかどうか、という問題です。また平衡状態と定常状態の問題に戻る。

示強変数と示量変数のことを述べたら、あとはほぼ高校の熱力学の復習。ただし、高校で理想気体を用いて定義した絶対温度は「経験(的)温度」である、ということに言及。大学では、「熱力学的温度」を習う、と。え、高校であれだけ帰納法のような論理を通じて導入した絶対温度が、「経験的」なんですか?って、がっくりきましたか? もっと熱力学的に厳密な温度があることに気体しましたか?と少しサービス。また、熱力学温度の言葉を出したところで、「統計力学的温ってのがあるんですか?」って話を出さなかった。実はそれらは同じで、「熱力学のエントロピー統計力学エントロピーが同じだからと」いうことで、「エントロピーって聞いたことありますか」と言って、期待を持たせようかな、とも思っていた。

気体定数について高校で22.4l・atm/K/mol(ニニンがシ、リットル・アトム・舌どもる)と言って、1モルの気体は1K、1気圧で22.4lであると覚えているかも知れないがウソですよ。1000K、0.001気圧ならそうですが。どんな気体でも、(高温)低圧では理想気体に漸近するんですよ。高温に括弧をつけたのは、22.4lの文脈から高温となったが、液化が関係しないような低圧ならば、常温で構わないとコメントしてから。これを話したのは、漸近的性質は高校ではそんなに気にしなかったかもしれないが、高校と大学の違いはその当たりの精密だというため。

圧縮因子、膨張率、圧縮率、そして混合物の場合の組成の表し方の一つとしてモル分率をやって終わり。

熱力学は化学リテラシーであることを強調しなかったのは、抜かり。

講義1 平成28年度第14回目

2016年6月1日。

とうとう6月。暦の上では夏。

さて、後半(目標2)の第6回目。第6回と第7回は、異方性媒質中の電磁波。結晶光学と呼ばれることもある内容。7回の講義(+試験1回)の最後の2回にこの内容をやるのは、例年と同じ。回折の後に異方性媒質中の光波の内容なのは、今使っている教科書の順に従ったから。

誘電率テンソルの場合のマクスウェル方程式の扱いは、学部学生の平均からすると、少し難易度が高い。もちろん、新しい数学は不要なので、できないことはないが、「盛り沢山」は避けるべき。つまり、消化不良になると、今までわかったいたことまで「わからない気」になってしまうことがある。

まず最初は、DE0E+Pを異方性媒質の場合に拡張する。「結晶」ではなく、異方性分子を例に出して、電場の方向によって分極Pが異なることを理解してもらう。簡単のために磁気異方性はないものとする。これは、学部学生に対する講義だからで、基本的な扱いや概念を理解することが目的だから。「エネルギー的考察から」で済ますこともあった、誘電率テンソルεijが対称テンソルであることは、テンソル計算に慣れてもらうのがいいので、やる。昨年度は少し迷ったが、今年度は演習の自分の担当のところをやって、「慣れが足りない」と感じたので、迷いはない。誘電率テンソルが対称テンソルであることを「電場のエネルギーがスカラーであることから導出する」といったのは、混乱を生じ兼ねない言い方であったことを反省。その通りであっても、それを前面に出す形にせずに、「エネルギー保存則の式から」と言うのが、テンソルの計算に慣れてもらうという趣旨に合っている。次いで、対称テンソルは対角化でき、対称テンソルが対角化される座標系を主軸系というところに進む。行列の対角化は、さすがに省略。行列の対角化が座標系の回転になっていることも同様。主誘電率、主屈折率、・・・も紹介。

フレネルの法線方程式に入る前に、トリプレットの語を紹介。x軸方向の単位ベクトルをi、y方向の単位ベクトルをj、z方向の単位ベクトルをkとすると、k=i×jの関係が成り立っている。このような関係にあるベクトルijkに対し、トリプレットという語を使う。等方媒質中の電磁波については、TEM波の条件が成り立つことを強調した。電磁波の伝搬方向の単位ベクトルaと電場ベクトルEと磁場ベクトルHの間には、方向については同じ関係が成り立っている(H = Z (a×E);本年度から、媒質の特性インピーダンスZ = (μ/ε)1/2を積極的に前面に出している)。さて、異方性媒質の場合はこれがどのように変わるのか。マクスウェル方程式から出発し、それを示す。(a,E,H)の間に成り立っていた直交する関係は、(a,D,H)の間の関係に変わる。もはやDEは平行でないから、(a,E,H)の方向の間のトリプレットの関係は成り立たない。ポインティングベクトルSを計算すると、Saと平行ではないことがわかるが、これは教科書を参考にしてもらうことにする。エネルギーの伝搬方向s=S/|S|が異なることを強調し、aは波面(等位相面)の移動方向であるという説明を行う。位相速度とエネルギー伝搬速度の二種類の速度が存在することも。ただし、盛り沢山なので、教科書に沿った説明のみ。D=(n2/μc2)Eの図を使っての説明は丁寧に行った。

昨年度と同様、その後フレネルの法線方程式まで進み、そまでで終える。昨年度は、屈折率楕円体の話をする積りでできなかったが、本年度は最初から「フレネルの法線方程式に等価な図形的な方法に屈折率楕円体を用いるものがありますが、これについては次回に行います」のような。また、フレネルの法線方程式は少し難しいと感じているかもしれないが、屈折率楕円体に関しては基礎知識。試験でもよくその基礎知識を問うています。ともあらかじめ言ってしまう。疲れてしまって、また時間もなかったので、ポイントをの述べる形になってしまた。学生から要求されたら、次回にやろう。

講義1 平成28年度第13回目

2016年5月27日。

後半(目標2)の5回目。具体的な開口についての例の2回目。透過率分布が三角関数の空間分布を持っている場合を最初にやり、次に多重スリット(N重スリット)について触れる。

イントロとして、既に観測点を含む領域の表面での振幅がわかれば観測点での振幅を表面積分として求める公式が回折積分だから、開口関数は開口面上での振幅であった。従って、開口に入射する光の振幅を1とする単位系では、開口関数は開口の透過率分布となる、と言うことはやっている。ここでは、更に一般化できて、半透明物質の厚みが開口上の位置によって異なっているような場合を透明物質の場合に拡張できる。この場合、位置(x,y)での厚みをd(x,y)ならば、開口を通過した後に振幅はexp[-nkd(x,y)]のようになる。更に透過率を同時に考えることができるので、開口関数は一般には複素数となり得る。本講義では、開口関数が0と1の間の実数の場合を扱う。かつて、複素数の開口関数をやったこともあったが、困難さが大きかった。

正弦関数で開口関数が表現される場合の計算を行うため、まず1のフーリエ変換ディラックデルタ関数であることを述べる。もちろん、デルタ関数の説明は前置。正弦関数を複素数の指数関数で表現してから、1のフーリエ変換デルタ関数となる「公式」を使って、振幅を計算。デルタ関数の前に虚数単位が掛かったものが現れ、「訳わからんでしょう」と問い掛けながら、振幅がゼロでないのは0次光と±1次光であることを表すグラフを書く。グラフを書いてから、光強度分布を考えましょう。振幅の二乗、つまり振幅とその複素共役の積なので・・・と計算して、同じデルタ関数の二乗とクロスターム出てくることを述べ、クロスタームはδ(x-a)f(x) をδ(x-a)f(a)に置き換えられる性質を用いるとゼロになると言及。つまり、「このグラフの縦軸は光強度で、0次光と±1次光のみが現れている」と。

レポートの問題を配布してから、休憩を挟んで、N重スリット。まずは、二重スリットのときの計算を途中から再現し、スリットの位置がずれると単スリットの場合の振幅u1(x)に位相因子が掛かることを説明。N重スリットの位置がランダムな場合は、N個のスリットについて掛かる因子の位相はランダムなので、光強度においてクロスタームは打ち消しあってゼロになる。自身の大きさの二乗がN個現れ、光強度はN倍となる。スリットが規則的に配列していると、ゼロ次光のピーク強度はN2倍になることがポイントと述べる。Σn=0N-1an = (1-aN)/(1-a)を使って計算できることだけ説明して終わり。