講義2 平成27年度3回目

2015年6月17日。

熱力学第一法則。しかし、これはエネルギー保存則に過ぎない! 公理的熱力学の立場からは、内部エネルギーは新しい状態量であるが、 第2回でも述べたように、材料の物性を予測したり解析したりする立場からは、その立場はとらない。

最初は、状態量の性質から。当たり前だけれどもと前置きして、Z=f(X,Y)が状態量ならば、その差ZB-ZA=f(XB,YB)-f(XA,YA)は、始点Aと終点Bのみにより、その間の経路には依存しない、ということを説明。経路に沿った積分を定義した後に、「経路に依存する性質のものが存在する」と。具体的な例は、よく知っている摩擦のある場合の仕事と、紹介。

次に、仕事と熱の説明。教科書の説明ではなく・・・仕事も熱もエネルギーの移動の形態である。力学における仕事=力×変位を拡張した形に書けるのが熱力学における仕事。そのような表現ができないものが熱だ、と説明。当然、d'w=-PdVは説明(準静的過程の説明のところで、ここのPは外圧であって、教科書ではPeとなっている、と補足)。熱に関しては、温度は運動エネルギーであるという、気体分子運動論のところを思い出して下さい、と言って。熱を加えてランダムな熱運動を大きくするときに、加えたエネルギーを拡張された力×拡張された変位の形に書けないと説明。

熱力学第一法則は力学的エネルギー保存則の拡張として理解できる、というのが私の流儀。N粒子からなる系について、運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー=一定かからスタート。まずは、運動エネルギーを重心の速度と重心に相対的な各粒子の速度を用いて書き換える。ポテンシャルエネルギーについても、内部自由度からの寄与と外力の寄与に分解。例として、重力エネルギーを取り上げ、N粒子に渡る重力エネルギーの和が重心に全質量が集中しているとした場合の重心の重力エネルギーとして表現できることを挙げる。微視的な力学的エネルギー保存則が、重心に関するものと内部自由度からの寄与に分けられたわけである。ここで、電車の中で熱力学の実験を行なうのと、実験室で行なうのと差がありますか?と問い掛け。これにより、熱力学的な扱いを行なうにあたっては、重心に関するエネルギー保存則を分離でできる、と。運動エネルギー+ポテンシャルエネルギーにおいて、内部自由度から寄与が内部エネルギーだと。後は端折って、d'w+d'q=dU。

準静的過程の説明は、教科書に描いてある、ピストンの付いた容器に入った気体を考え、ピストンの上に重りを加えて行く話から入る。そこで、最初の状態は十分時間が経てば平衡になるが、重りを加えた瞬間に気体中に流れが生じて、非平衡となり、圧力は定義できないと説明(そこで、上の外圧の補足)。d'w=-PdVのPを気体の圧力として、気体の状態方程式を使って仕事の計算を行なう場合は、気体を平衡に保つ必要がある。変化の途中でも平衡状態が保たれるようなゆっくりした変化を準静的変化と言う、と説明。そして、重りを加える例で分かるように、加える重りの重さを無限小にしたら、加える回数は無限大になってしまうので、実現不可能な過程です、補足。そして、d'w=-PdVは静水圧による仕事と言って、頻出するものです、と。

最後に熱容量とエンタルピーについて話して終わり。d'w+d'q=dUにd'w=-PdVを代入して変形をし、d'q=dU+PdV。ここで、温度をΔT上げるのにΔqの熱が必要だとして、熱容量をC過程=(Δq/ΔT)過程で定義します。熱は過程に依存しますので、サブスクリプトの過程を付けました。ΔT→0とすると、C過程=(d'q/dT)過程となります。定積過程(dV=0)では、d'q=dU+PdVからCV=(∂U/∂T)V(一定に保つ変数をサブスクリプトで表します)。定圧過程(P=一定)では、エンタルピーH=V+PVを定義すると、(P=一定だから)CP=(∂H/∂T)Pとなります。

3分くらい時間をオーバーしてしまった。

午前中は会議だったので、前回の終わりに気液臨界点を含む相図の載っているページを紹介し行ったことを忘れてしまっていた。理想気体についてd'w=-PdVを積分しなかったのは、次回に「熱力学は、微分ばっか」って印象でしょう。例外は、1/xの積分がln xになること、ってのをやる積りだから。

尚、2014年6月17日(火)は、大学病院を退院になった日である。