講義2 平成29年度 第10回目

2017年7月12日。

次回は、前半(熱力学第2法則まで)の試験。講義の最初に次回は前半の試験について、計算問題は出さない、基礎知識を問う(教科書の)穴埋め、用語の定義やその説明を出題します。

化学平衡の法則・質量作用の法則のあらましを再度の黒板に書いてから、標準生成ギブスエネルギーへ。これは、教科書ではプリムソルを付けたΔGの説明がしてあるが、前回の講義では、質量作用の法則の分母に標準圧力が来る形を避け、モル分率で質量作用の法則を表していたため。

平衡定数に出てくるΔGの計算を実験データから計算する方法の説明。まず、うっかり例として挙げてあるアンモニアの生成反応では、ΔGは反応の標準ギブスエネルギー変化ないしは標準反応ギブス自由エネルギーだといてしまい、訂正。標準生成ギブスエネルギーは単体から化合物を生成するときのギブスエネルギー変化なので、この反応の場合は表に載っているものがそのまま使えます。ところが、原系にも化合物が含まれ(生成系にも化合物が含まれ)る反応だと、標準生成ギブスエネルギーの表には載ってませんね。第一法則のところで、詳しくやりませんでしたが、ヘスの法則というものがありました。エンタルピーは状態量だから、経路Iでの反応熱(反応エンタルピー)は、その反応を経路II->経路III->経路IVで起こした場合の各経路での反応熱と同じでした。原系に化合物が含まれてる場合は、単体から化合物が生成する反応を加減して、その反応のギブスエネルギー変化を計算すればいいことになります。

ここでコメントを。皆さん、高校で化学はとっていないんですよね。ヘスの法則のところもそうでしたが、化学らしいですよね、泥臭いですよね。私は物理出身なので、物理系の熱力学の方が(頭に)すんなりはいるので、つい皆さんの顔色を見ながら、泥臭いところを避けるようにして来ました。用語に関しては、化学で使うものも試験には出します。

次に平衡定数の温度変化、温度依存性についてです。この節は、今までのように物理系の熱力学に戻った感じがします。ln K = -ΔG/RTの温度微分を計算するものです。平衡定数そのものを温度で微分するのではなく、対数微分を計算します。発見的なやり方をしましょう。dU=TdS-PdVから出発しましょう。dH=TdS+VdP、dG=-SdT+VdPですね。また、Gの定義はG=H-TSですが、dGの式の第一項から(∂G/∂T)P=-Sなので、H=G+TS=G-T(∂G/∂T)Pですね。既に、ΔH=-T2[∂(ΔG/T)/∂T](ギブス・ヘルムホルツの式H=-T2[∂(G/T)/∂T])とln K = -ΔG/RTから(d/dT)ln K = ΔH/RT2と答を書いていますが、惜しいですね。もし(∂G/∂T)P=-SのSの前がプラスだったら、G+T(∂G/∂T)Pで=[∂(TG)/∂T]P=Hですね。(符号の)間違いじゃないですよ。ln K = -ΔG/RTの温度微分を計算するのですから、G/TをTで微分してみましょう。∂(G/T)/∂T=[(∂G/∂T)T-G]/T2ですね。分子はG-T(∂G/∂T)Pと順番が違っていますので、マイナスが付きますね。ln K = -ΔG/RTの前にもマイナスありますので、・・・おっと、これで(マイナスが付くので)ギブス・ヘルムホルツの式H=-T2[∂(G/T)/∂T])が出てきたんです。既に最初に言っていますが、ln K = -ΔG/RTの前にもマイナスとΔH=-T2[∂(ΔG/T)/∂T]のマイナスが打ち消しあって、(d/dT)ln K = ΔH/RT2にはマイナスは出てきません(最初にマイナスがキャンセルすると言っておきながら、板書では誤ってマイナスを書いていますね)。

さて、物理的解釈です。ΔH>0の場合は、温度が上がるとKは大きくなるんですね。ΔHは反応後のエンタルピーから反応後のエンタルピーを引いたものですから、正のΔHは吸熱反応になりますね。温度を上昇させると、それを緩和するように吸熱反応が進むんですね。温度を下降させた場合は、逆に発熱の方向に反応が進むんです。教科書に書いてあるル・シャトリエの原理ですね。平衡定数の圧力依存性も全く同じです。浸透圧のところでファントホッフの式が出てきますが、平衡定数の変化を表す式にもファントホッフの名前が付いています。圧力微分の場合は、分子のGだけを微分すればいいので、直ぐにVが出てきます。式のこねくり回しに物理的なものを感じてホッしましたか、それとの物理的な解釈のところにホッとしまいしたか。

最後は熱力学と平衡定数の節。まず、反応が完全に右とか左に進んでしまうことがないことに言及。K = exp( -ΔG/RT)なので、限りなくゼロに近づいても(ΔGがひじょうに大きくても無限大になる反応はないから)K>0であり、ΔGが負で大きさがひじょうに大きくても(マイナス無限大のΔGの反応はなから)K<∞です。エネルギー的に反応が右に進むのが有利な場合も、必ず原系の成分がわずか残ってしまうんです。もうわかったでしょう。エネルギー的っていました。そう、エントロピーの効果で残るんですね。完全に反応が完了せずに、わずかに残っていた方が、混合のエントロピーが自由エネルギーを下げるんですね。

さて、今日は化学の流儀、物理の流儀って話を沢山しました。今まで機会を逸して来ましたが、化学ではヘルムホルツエネルギーにAを使いますが、物理ではFを使います。更に、Fと単に自由エネルギーと呼ぶことも多いです。先ほど、試験には計算問題は出さないと言ったときに、自分のレベルに合わない暗算を行う形の答案をクソ暗記して時間内に書き上げるのは有害だといいました。Aを使った答案をクソ暗記していると、同じ議論がFを使って行われたときに、同じものと認識できかったりするんです。翻訳を必要とする、と言った方がいいかも知れません。皆さんいは翻訳できる立場になって欲しいと思います。

フガシティーについて説明して終り。今まで理想混合気体(μiiプリムソル+RT ln (pi/Pプリムソル))について議論して来たが、非理想気体の場合はどうするか、と言う話し。これも、例えば相平衡の問題であれば、温度T、圧力Pと化学ポテンシャルμiが相の間で等しいことを議論すればよく、化学ポテンシャルをT,P,piの関数とみなそうが、T,P,xiの関数とみなそうが、関数が分かっていれば問題は扱えます。物理のセンスはそうですが、化学では ln (pi/Pプリムソル)の形にこだわるんですね。もはや理想気体ではないので、μiiプリムソル+RT ln (pi/Pプリムソル)が成り立たないところ、μiiプリムソル+RT ln (fi(pi)/Pプリムソル)とfi(pi)を定義して、この形を保とうとするんですね。fi(pi)=Pプリムソルexp(μiiプリムソル/RT)∝exp(μi/RT)なので、Kについて対数をとって議論してきたのの逆をやろうとしているともみなせます。私も物理の出身ですので、最初は戸惑いました。