講義2 平成29年度 第6回目

2017年6月23日。

もうこれで「補講を受けられなかった学生」にわずらわせられるのはやめられる・やめよう。

さて、本日は熱力学第二法則の2回目。カルノーの定理、熱力学的温度、クラウジウスの式(不等式)と進んで、最後にエントロピーの定義を行う。高校で化学を履修していない学生ばかりなので、既に戸惑うところはあった。しかし、本日の内容については、問題ないだろう。前々回の相転移熱(潜熱)や反応熱は、化学を履修していないことをもっと意識したやり方にすべきだった。次回の相転移や反応のエントロピーのところでは、そうしたいと思う。

カルノーの定理の証明は、トムソンの原理とクラウジウスの原理の等価性を示すのと同様に、背理法を使うもので、論理学にアレルギーを持っている学生にとっては、うんざりでしょうね。その前に、トムソンの原理で否定されているサイクルが存在すると仮定すると、クラウジウスの原理で否定されている過程が「合成機関により」実現できてしまう。カルノーの定理で否定されている過程が実現できたと仮定すると、トムソンの原理で否定されているサイクルが「合成機関により」実現できてしまう。と再度繰り返し、「合成」を強調。熱機関・過程を分解して、トムソンの原理に反する部分を分離するとか、クラウジウスの原理に反する部分を分離するというのは、取り出した部分が熱機関・過程として動作するかの保障ができない。合成ならば、そのようなことはない。エンジンの1/2のミニチュアを作ったら、それを二つ合成した熱機関が元のエンジンと同じだとは保障できないし、ミニチュアが動作するとは限らない。エンジンを相似に縮小した場合、摩擦の割合が増加するので、縮小度合いによっては動作しなくなる。その前置きの元、カルノーの定理(の後半)を否定すると、クラウジウスの原理に反する過程が合成機関によって実現できてしまう説明を行う。基本的には、教科書の通り。次に、カルノーの定理(の後半)を否定すると、トムソンの原理に反するサイクルが合成機関によって実現できてしまうやり方のポイントを説明。カルノーの定理の前半は、後半が証明できれば、理想気体を作業物質としたカルノーサイクルの計算は行っているので、自明。

熱力学的温度は、おそらく論理学をやると更にうんざりする学生が出るだろうから、ポイントだけを述べることににする。可逆サイクルによって、熱源からサイクルに流入・熱源へサイクルから流出する熱によって定義する、とポイントだけをまず述べる。可逆サイクルの場合に、サイクルの一方がカルノーサイクルの場合の式から、比例することを説明。原点が経験的絶対温度と一致するように選ぶと、熱力学温度と経験温度は一致するから、今後は同一視する。例年はこれで終ることも多かったが、少し余裕があったので、サイクルを縦に並べて、二つのサイクルの間の熱源を含む合成サイクルを考えることにより、サイクルへ流入する熱とサイクルから流出する熱の比が、高温熱源と中間熱源の温度の関数でもあり、同時に高温熱源と低温熱源の温度の関数でもある、と言うようなことが出てきて、最終的に「熱源からサイクルに流入・熱源へサイクルから流出する熱によって定義する」形にできる、と少し説明を加えた。

カルノーの定理からクラウジウスの式へは、省略はしない。それを省略したら、何のために「苦手な論理学」に基づく、”「トムソン⇔クラウジウス」⇔カルノーの定理”をやってきたのか、ってことになる。まずは、系(=サイクル)のエネルギーが増加する方向を正の方向にとる流儀に戻すと言って、カルノーの定理(の後半)を熱と温度で書き換えた式を変形して、熱欲が二つの場合のクラウジウスの式を導出。これが本質なので、後は説明を省略して、熱源が複数の場合と熱源の温度が連続的に変化する場合のクラウジウスの式を書く。

最後にエントロピーを定義する節へ。いつものことだが、エントロピーについては「新しい状態量を定義します」「新しいことを(単なる高校の熱力学の拡張ではないこと)を学びます」と言うことを強調。クラウジウスの式(不等式)で等号が成り立つのは、可逆過程のときだということを強調する板書を。可逆な経路に沿ってd'q/Tを積分したものとして、エントロピー差ΔSを定義。可逆な場合は、クラウジウスの式が、d'q/Tの周回積分がゼロになるという形になり、状態量の性質の式となるので、新しい状態量の存在が示唆され、それがこのように定義されるエントロピーである。エントロピーを用いてクラウジウスの式を書き換え、孤立系に適用して、熱力学第二法則エントロピー増大則と表現できることに言及。さて、今まで、一般性のある表現への熱力学第二法則の書き換えを行ってきたが、ここで孤立系に限定した表現になっていまい、戸惑っているのではないか? 孤立系に対して、エントロピー増大則とかエントロピー最大の原理とかの表現が、はやり一般性が最も高いから相するのです。系と外界を合わせて、全系が孤立系に成るように外界を定義することができるという訳です。系の状態量で記述するのが便利だという話を以前にしましたが、外界を含めて考察する必要が出てきてしまっていますが、それでもエントロピー増大則が一般的なのです。

昨年度の記録を見ると、「神様、もうエントロピーを(無駄に)増やすことはしませんので、これまでエントロピーを増大させてきたことはなかったことにして下さい、と言ってもできない」ことについて言及ていました。それは、次回に致しましょう。ビーカーとウオーターバスを全系とみなせば足りる場合、実験室を全系とみなせば十分な場合、地球全体を全系といて扱う必要がある場合、地球+その周りの宇宙の場合、更に外側の宇宙・・・(たとえ宇宙が開放系であったとしても、エネルギーの伝搬速度は有限、光の速さを超えませんので、光の速さ以上でしか相互作用できない外側は考慮しなくて良い訳です)「と話をしましたので、熱死と言う言葉を紹介して終わります。全宇宙のエントロピーが最大に達したら、それで平衡なので、宇宙は何の変化も起きない、死んだ世界になってしまう、言う話です。さて、宇宙全体を孤立系として考える場合、どんな現象が熱力学の対象となるんでしょうかね。