講義2 平成28年度第6回目

2016年6月29日。

第2法則の回目。熱機関の効率、熱力学的温度、クラウジウスの式、エントロピーが内容。熱機関の効率の内容は、カルノーの定理。熱力学的温度はそのものだが、最近は「可逆サイクルに流入および可逆サイクルから流出する熱を温度として用いることができる」で済ましている。もちろん、経験的温度(絶対温度)一致するように温度の原点を定めることができることは、述べる。クラウジウスの式は、カルノーの定理の書き換えだから難点はない。エントロピーは、可逆な経路に沿ってd'q/Tを積分するとエントロピー変化になる、というだけのこと。

その前に、前回疲れてしまって強調すべき点で強調できてないところがある。まず、熱力学第2法則は、「覆水盆に返らず」を定式化したものであること(エントロピー増大則のところで述べた)。可逆サイクルの定義は、カルノーの定理のところで再度明確に述べる。トムソンの原理とクラウジウスの原理の等価性の証明において、一方に反する過程が存在した場合、「それを他の過程やサイクルと組み合わせて」、他方に反する合成機関を構成することができる、という性質を言い忘れている。分解では不都合なのである。例えば、トムソン原理に反する熱機関があったとして、それを解析してその中でクラウジウスの原理に反して低温熱源から高温熱源へ熱が移動するだけの部分を残すように分解する。分解後の部分部分がサイクル(=エンジン)として動作する保証はない。ある大きさでエンジンが動作したとして、それのミニチュア(からなる合成機関)が動作するって言えますか?

カルノーの定理は、(同じ熱源の間で働く)可逆熱機関の効率は全て同じという前半と、一般の熱機関の効率は(同じ熱源の間で働く)可逆熱機関の効率を超えない問い後半からなる。前半は、カルノーサイクルが可逆サイクルであり、カルノーサイクルの効率が熱源の温度のみによっていたことから、可逆熱機関の効率は熱源の温度のみによるということと等価である。カルノーの定理の後半に反する機関が存在すると、クラウジウスの原理に反する過程が構成できてしまう、というのが内容。ここでも。「合成機関を構築することができる」である。カルノーの定理の後半に反する機関が存在すると、トムソンの原理に反する過程が構成できてしまう、という証明も可能であるが、コメントのみにする(前回よりは疲労の度合いはましだが、セーブします)。後半が理解できれば、前半は自明に近いと思う。

クラウジウスの式(不等式)では、サイクルを系として、系に流入する方向を正として、カルノーの原理の後半を書き換える。それを一般化する。そして、それに基づいて(それを参考にして)、(便宜のために)新しい状態量「エントロピー」を定義しましょう。すると、クラウジウスの式を更に書き換えることができ、孤立系に対しては「エントロピー増大則」「エントロピー最大の原理」となる。全系が孤立系になるように系+外界を定義すると、全系に対するエントロピー増大則になる(最近は、正のエントロピー生成という表現は紹介していない)。一度増えたエントロピーは、減少させることはできないんだよ。あと、折角私が担当講師なのだから、「デーモン」という語を紹介。「神様、反省していますので、なかったことにして下さい」とお願いしても、エントロピーを減らすことはできないんだよ。物理学では、神でなくデーモンと呼びます。エントロピーを減少させるデーモンを考えることはできて、例えば自由膨張の逆の過程を実現するデーモンは、マックスウェル・デーモンと呼ばれています。分子レベルのデーモンがいて、右方向の速度を持った分子に対しては膜の穴を開いて、逆方向だったら閉じることをしたら、自由膨張の逆の過程が実現できますよね。マッドに思えるかもしれませんが、計算機制御されたマックスウェル・デーモンを実現したとしましょう。分子(の速度の)識別などの情報エントロピーを含めた全系のエントロピーを考えると、増大しているというのが最新の研究です。計算機を含めて全系を考えるんですね。