講義2 平成27年度9回目

2015年7月8日。

本日の講義では、ひとつ失敗をやってしまった。講義内容は、相平衡の条件、ギブス・デュエム関係式、理想気体の化学ポテンシャル、質量作用の法則の4つである。最後で、ミス。

まず、相平衡の条件が「共存する相の間で温度、圧力、化学ポテンシャルが等しい」というもの。化学ポテンシャルが温度、圧力一定でギブスエネルギーをモル数で微分したものに等しい(これを定義とするやり方もある)ことに相当し、等温定圧での二相平衡条である「二つの相の間で化学ポテンシャルが等しい」をギブスエネルギー最小の条件から導く。次いで、等温定積で同様なことをヘルムホルツエネルギー最小の条件から導く。物質量の分配の仕方に関する最小の条件はほぼ同じ。体積の分配の仕方に関する最小の条件から圧力の条件が出てくる。エンタルピー最小の条件を考える場合や内部エネルギー最小を考える場合については、時間の都合から割愛。孤立系でエントロピー最大の条件からも相平衡の条件が出てくることについても言及はする。

ギブス・デュエムについては、内部エネルギーUが示量変数であることからスタート。つまり、U(S.V,n)はエントロピーS、体積V、モル数nの一次の同次式なのである。同次式に関するオイラーの定理の説明をしたが、「学生の苦手なところに触れてしまったかな?」と思った。雰囲気が良くなかったので、同じ系をλ個集めた合成系を考えると、内部エネルギーの示量性よりλU(S.V,n) = U(λS.λV,λn)が成り立つ、という導入のところの式をλで微分して・・・というのでやって下さい、と言い換える。基本式dU=TdS-PdV+μdnの係数とUの偏微分との関係を使うとU=TS-PV+nμが得られる(オイラーの定理から得られる関係式なので、オイラーの関係式と呼ぶこともある)と。オイラーの関係式がG=nμ(多成分系の場合は、nμは全てΣi niμiに置き換わる)とかきかえられることを補足。オイラーの関係式の微分と基本式を比べると(オイラーの関係式に基づいて微分dUを計算して、それから基本式を引けばよい)0 = SdT - VdP + ndμとなる。これがギブス・デュエム関係式である。T、P、μを独立に変えられない。温度変化dTと圧力変化dPがあれば、化学ポテンシャル変化と伴ってしまう、説明。

理想気体の化学ポテンシャルは、まず単成分系についてギブス・デュエム関係式をdμ = -SmdT + VmdPと変形して、(∂μ/∂T)P = -Sm、(∂μ/∂P)T = Vmから出発。Smはモルエントロピーで、Vmはモル体積。後者を積分してμ(T,P2) - μ(T,P1) = ∫P1P2(V/n)dP = ∫P1P2(RT/P)dP = RT ln (P2/P1)。理想混合気体について、純物質の化学ポテンシャルをμi*として、μi = μi* + RT ln xiとなることについては、ΔGmix = -TΔSmix = RT Σi niln xiとG = Σi niμiを較べてRT ln xiを理解しておくのがいいでしょう、と(IUPACの流儀だとΔmixGとなるということも漏らす)。ΔGmixをモル数で微分するやり方には、触れなかった。

最後の質量作用の法則のところ。例として水のイオン積、ついてアンモニアの生成反応のについて。化学平衡の法則の[N2][H2]3/[NH3]2 = K(平衡定数)を平衡条件から導き出すのがここでやること。ミスは、N2+3H2 = 2NH3の形の反応式の生成系側を反応系側に移してΣi νiAi = 0の形にして、化学量論係数νiを定義する、とやってしまったこと。ΔG = G(生成系) - G(反応系)の慣例に従おうとすると、ΔG* = -Σi νiμi*と負号を付けなければならなくなる。それで論理が破綻することはないが、訂正を授業のホームページにあげた。尚、モル濃度[Ai]でなく、モル分率xiで濃度を表す表式で進めた。肩に*を付けたのは、それに対応して。

反応進行度ξを定義してdniidξ。反応進行度に直してδξのモル数の変動によるギブスエネルギーG = Σi niνiの変動がδG = Σi δniνi = Σi νiμiδξとなることから、ギブス自由エネルギー最小の条件はΣi νiμi = 0となる。これにμi = μi* + RT ln xiを用いると、式変形の後にΠi xi = Kとなる。KがΔG* = G*(生成系) - G*(反応系)を用いて、ln K = -ΔG*/RTによって与えられることは、単純な計算である。尚、ホームページには、Πi xi = Kを分圧を用いて書き換えることと共に、モル濃度を用いて書き換えるやり方についてのサジェスチョンも与えた。